生命保険会社の決算からわかること(1) 日本生命と住友生命のポートフォリオ比較このページは下記「月次統合レポート」より転載させていただきました。 |
一般勘定のポートフォリオ2006年5月29日、生命保険各社は平成17年決算(案)を公表しました。新聞では、生命保険会社の利益の源泉の主要な部分であるを利差益、死差益、費差益に分類した細部を、初めて公開したということが伝えられていました。ここでは、生命保険会社の公表資料から、生命保険会社の一般勘定のポートフォリオの内容を推測してみたいと思います。 一般勘定という言葉は専門用語です。一般勘定に対するものとしては特別勘定というものがあります。保険業法では、特別勘定の定義はありますが、一般勘定の定義はありません。(注1)特別勘定に該当しないものが一般勘定というわけです。ちなみにこれは、保険業法施行規則に定義があります。特別勘定は、運用実績連動型保険契約など(年額年金保険や団体年金の一部が該当します)の契約の場合に設定されるものです。 つまり、変額年金などの保険契約でない一般の保険契約の場合、その資産は一般勘定というところに集められて運用されているのです。そして、その成果は利益(損失)の一部となり、税金を支払い、最終的には、契約者に配当という形で還元される仕組みです。ただし、その契約に配当が支払われないタイプのもの(無配当保険)であれば、配当は支払われません。 配当が支払われる場合、保険会社の一般勘定のポートフォリオを知っておくことは、配当が支払われる理由を知ることにつながります。ほとんどの人は意識していませんが、保険の配当とは、会社が利益を生み出し、その利益などに基づいて支払われるものです。したがって、会社が利益を生み出すということは、保険契約者にとって、とても大切なことです。 ポートフォリオの概要〜日本生命と住友生命の例今回は、日本生命保険相互会社「平成17年度決算(案)について」および住友生命保険相互会社「平成17年度決算(案)のお知らせ」の2つの資料(以下、各社資料といいます)を基に数値を見ていきます。表1は、日本生命と住友生命の一般勘定の資産の内訳を表したものです。 表1 一般勘定のポートフォリオ構成 | 平成16年度末 | 平成17年度末 | 変化 | | 日本生命 | 住友生命 | 日本生命 | 住友生命 | 日本生命 | 住友生命 | 現預金・コールローン | 1.4% | 1.9% | 2.8% | 2.6% | 1.5% | 0.7% | 有価証券 | 66.2% | 61.5% | 68.7% | 64.8% | 2.5% | 3.2% | 貸付金 | 23.2% | 24.2% | 20.7% | 22.6% | -2.5% | -1.6% | 不動産 | 4.0% | 6.0% | 3.5% | 5.6% | -0.5% | -0.5% | 繰延税金資産 |
| 0.6% | | | 0.0% | -0.6% | その他 | 5.3% | 5.8% | 4.3% | 4.5% | -1.0% | -1.2% | 各社資料よりバームスコーポレーション作成 | グラフにしてみると両者の資産構成が比重に似通っていることがわかります。運用先としてもっともウェイトの高いものが有価証券、次いで貸付金、そして不動産という順番です。一般勘定というポートフォリオがいくつかの資産に分散して投資されていることがよくわかります。さらに、有価証券について、資産クラス(注2)ごとのウェイトを表したものが、表2になります。 表2 有価証券の内訳 | | 平成16年度末 | 平成17年度末 | | | 日本生命 | 住友生命 | 日本生命 | 住友生命 | 日本 | 株式 | 17.2% | 8.1% | 21.7% | 10.7% | | 債券 | 34.6% | 28.7% | 32.9% | 30.5% | 海外 | 株式 | 2.9% | 3.0% | 3.0% | 3.0% | | 債券 | 10.2% | 21.1% | 10.3% | 20.2% | | その他の証券 | 1.2% | 0.6% | 0.7% | 0.3% | | 有価証券計 | 66.2% | 61.5% | 68.7% | 64.8% |
各社資料よりバームスコーポレーション作成 | 日本生命と住友生命で少し違っているようですね。具体的には日本生命のほうが日本株式へのウェイトが高い、住友生命のほうが海外債券へのウェイトが高いという構図になっています。ある基準と比較してウェイトを大きくしている状態をオーバーウェイト、その逆にウェイトを低くしている状態をアンダーウェイトといいますが、この2社で比較するのであれば、「日本生命は日本株式をオーバーウェイとし、海外債券をアンダーウェイトしている」、「住友生命は日本株式をアンダーウェイトし、海外債券をオーバーウェイとしている」ということになります。 表2のグラフは平成17年度末(2006年3月末)時点の一瞬のポートフォリオ構成を示したもので断定はできませんが、前年末の構成と比較すると、日本生命は日本株式のウェイトを20%前後に保ち、住友生命は海外債券のウェイトを20%前後に保つことを基準としているようにも思われます。 2006年5月末時点の世界の金融・経済状況を考えると、もっとも大きな関心はアメリカの金利問題です。アメリカのインフレが進行して、FRB(連邦準備銀行)が金利を引き上げ続けることになれば、企業はその金利をこえる成長を続けることは難しくなります。したがって経済が減速する。日本もヨーロッパもアメリカに依存している部分が少なくありませんから、同じように経済が減速する。これが最悪のシナリオです。そうなると、株式は値を下げることとなります。投資家は株式市場から資金を引き上げて、より安全な資産に資金をシフトすることになります。もっとも安全な資産は、米国国債です。 このシナリオが実現したとき、両社のポートフォリオが2006年5月末時点でも同じようなウェイトで構成されているとすれば、住友生命のポートフォリオのほうがリスク耐性は高いかもしれません。ただし、海外債権に投資しているといっても、いわゆるソブリン債(注3)ではなく、低格付債に投資していたとすれば、株式と同じようなリスクが実現してしまいます。 一方、逆のシナリオも考えられます。アメリカの住宅投資が抑制され、金利を早期に引き上げ終われば、アメリカと日本そしてヨーロッパはそろって安定的な成長が継続すると考えられます。現在のOECDの予測はこのシナリオです。好景気が持続すれば、企業収益が好調に維持され、その結果、株式にはさらにキャピタルゲインが上乗せされることが予想されます。このシナリオが実現したとすれば、日本生命のポートフォリオのほうがより高い利益を上げることになるでしょう。 債券=国債という仮定をおけば、住友生命より日本生命のほうが高収益が期待できるアグレッシブなポートフォリオ、住友生命のほうが日本生命よりリスク耐性の高いポートフォリオになっているように推測されます。
注1 | 破綻等の場合の一般勘定の定義はありますが、通常業務における特別勘定の定義はありません。 | 注2 | ここでは海外/日本および株式/債券およびその他の資産に分類されています | 注3 | 主要国の格付の高い国債 |
続く→決算から分かる保険会社ポートフォリオ比較(2)
このページは下記「月次統合レポート」より転載させていただきました。
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バームスコーポレーション有限会社 杉山 明 国際公認投資アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員、CFP 著書:「かしこいおかねの育て方」、「マーケティング・ノート」 執筆:ファイナンシャルアドバイザー(近代セールス社)
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