「生命保険原価」論…ライフネット生命の付加保険料から3/3ライフネット生命

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「生命保険原価」論…ライフネット生命の付加保険料から3/3

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「生命保険原価」論…ライフネット生命の付加保険料
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純保険料のいろいろ


「純保険料」というのも、ここまでの説明ではあたかも1つの「決まったもの」のように説明してきましたが、実はこれは正しく表現すると「保険料計算の基礎率の予定利率・予定死亡率を使った平準純保険料」ということになります。

予定利率や予定死亡率は通常は「保険料計算用」のものと、「責任準備金計算用」のものは同じものを使うのですが、これは必ずしも「そうでなければならない」ということではありません。法律では定期保険・養老保険・終身保険等では、責任準備金を計算するための予定利率・予定死亡率は「これこれを使いなさい」という指示がありますが、「保険料計算にも同じものを使いなさい」という指示はありません。

そこで保険料計算で違う予定利率・予定死亡率を使った場合、「保険料計算の予定利率・予定死亡率で計算した純保険料」と、「責任準備金計算の予定利率・予定死亡率で計算した純保険料」とはどちらも「純保険料」ですが、値が違ってきます。

さらに「責任準備金」というのも、「平準純保険料式(略して純保式)」というものの他に、「5年チルメル式(5チル式)」とか「全期チルメル式(全チル式)」という計算方法があると聞いたことがあるでしょうか。

これに対応して純保険料も、「平準純保険料式の純保険料」・「5年チルメル式の純保険料」・「全期チルメル式の純保険料」と様々な純保険料があり、それぞれ違った値になります。もちろんそれぞれの純保険料に対応して、それぞれの付加保険料も違った値になります。

損害保険と生命保険


生命保険では保険料計算に使う基礎率として通常予定利率・予定死亡率・予定事業費率という形で表現するので、どうしても予定事業費と付加保険料を混同してしまい勝ちになるのですが、損害保険ではこの基礎率を【純率】と【付加率】という形で表現するので、付加保険料が単に「割増し」という意味であることがより分りやすくなっています。

その上で、付加保険料というのは会社の事業費に充てられる部分と代理店手数料に充てられる部分、会社の儲けになる部分から成り立っていると説明されています。

生命保険は「生命保険は助け合いで、生命保険会社は儲けてはいけない」という迷信が長らく支配してきた世界なので、その中で付加保険料を説明するためやむなく【付加保険料=予定事業費】という誤解をバラ撒いてしまったのかも知れません。

生命保険の原価


以上、生命保険の原価と付加保険料について説明しました。納得できたでしょうか。

生命保険の原価は上記のとおり、保険金や給付金の支払額のことです。ライフネット生命はまだ始まったばかりで保険金の支払いはほとんど出ていません。一般に生命保険では契約してからしばらくは保険金等の支払いが殆どないのが普通ですから、ライフネット生命の原価が安いのか高いのかはまだわかりません。

ただし原価が安いか高いかというより、保険会社にとっては全体として収支・利益がどれだけ出るかというのが大切なことで、その点契約件数がまたそれほど増えていないのでライフネット生命は当分赤字決算となる見込みです(これももちろん折り込み済の話ですから、赤字でも別に問題はないのですが)。

保険の加入者にとっては生命保険の原価がどうのこうのと言っても実際に負担するのは営業保険料ですから、営業保険料が高いとか安いとかはそれなりに意味のある議論ですが、生命保険の原価について議論してみてもあまり意味がないことかも知れません。

予定事業費の保険料比例と保険金比例


最後に【予定事業費の計算方式】についても、ちょっとコメントしましょう。

ライフネット生命の出口社長が「生命保険は誰のものか」の本の中で、保険金比例と保険料比例の予定事業費(本の中では「手数料」という言葉に置き換えています)について議論して、またもや余計な混乱を巻き起こしているようです。

すなわち、ライフネット生命は保険料比例の予定事業費となっているので若い年代で保険料が安くなっているが、他の会社は通常保険金比例の予定事業費となっているので若い年代の保険料が高いというような議論です。

ライフネット生命の付加保険料の開示のニュースリリース

徹底した情報公開を目指すライフネット生命保険、付加保険料率の全面開示へ

を見てもわかるように、ライフネット生命も単純に保険料比例の付加保険料としているわけではありません。ライフネット生命の付加保険料は

  • (A)1件あたり月あたり250円
  • (B)(月払営業保険料−(A)の250円)の15%
  • (C)予定支払保険金・給付金の3%

の3つの合計ということになっています。

この(C)の「予定支払保険金・給付金の3%」というのも、ライフネット生命では良くある、説明もなしに言葉を言い換える手法の1例ですが、言わんとしているのは「純保険料の3%」ということです。せっかく「純保険料」と「付加保険料」という言葉を使って保険料の構成を説明しているのに、その付加保険料の計算式の説明に、その「純保険料」を使わずにわざわざ断りもなく別の言葉に言い換えているのは何故なんだか私には理解できません。

この付加保険料の決め方から

営業保険料=純保険料+250円+(営業保険料−250円)×15%+純保険料×3%

ということになり、これを式の変形で整理してやると

営業保険料-250円-(営業保険料-250円)×15%=純保険料+純保険料×3%

(営業保険料-250円)×(1-15%)=純保険料×(1+3%)

営業保険料-250円 = (純保険料×(1+3%))/(1−15%)

営業保険料 = (純保険料×(1+3%))/(1−15%)+250円

営業保険料 = (純保険料×1.03)/ 0.85+250円

ということになります。この250円の部分だけ必ずしも保険料比例にはなっていないということです。

この250円の部分も保険料比例に直すことができるのですが、そうすると多分若い人の保険料が安くなり過ぎて経費が賄えないということになるんだと思います。あともう1つ・・・この250円の意図は、保険金額が高くなっても250円は変わらないので、保険金額が高いほど保険料率(保険料/保険金)が安くなるということです。

「保険料を安くする」というスローガンを掲げるライフネット生命が保険料比例の予定事業費を使っているので、

    保険料比例 = 保険料が安い
    保険金比例 = 保険料が高い


みたいな感覚になりますが、そうではなく

    保険料比例 = 若い人の保険料は安く、高年齢の保険料は高い
    保険金比例 = 若い人の保険料は高く、高年齢の保険料は安い


ということになります。

そこで生命保険会社では一般にどのように予定事業費の体系を決めるかということになるわけですが、そこでは

  1. 狙い目の年齢帯の保険料を魅力的なものにしたい
  2. 保険料が安過ぎたり高過ぎたりしないようにしたい
  3. 全体として不公平にならないよう、バランスの取れるものにしたい

という、いくつもの点を考慮しなければなりません。

たとえばライフネット生命の10年定期保険・保険金1,000万円のケースで、
保険料内訳表

予定事業費率(予定事業費/営業保険料)が20歳の男性で36%、50歳の男性で21%。20歳の方が50歳の1.7倍と高くなっているというバランスと、予定事業費自体が、20歳の男性で397円・50歳の男性で1,237円。50歳の方が20歳の3.1倍と高くなっているというバランスと、どちらの方がバランスが取れているかということです。

保険金額1,000万円のケースでは、上の250円の定額の部分の影響であまり差が顕著に出ないのですが、保険金額5,000万円の方ではもっと明確に差が出ます。

予定事業費ベースでは、20歳22%・50歳18%でほとんど差が出ないのに対し、予定事業の額では20歳985円・50歳5,184円で50歳の方が5倍以上になっています。

同じ保険金額5,000万円の期間10年の定期保険で、予定事業費に5倍もの開きがあるのが公平なのかという議論も当然起こってきます。「純保険料が6.7倍になっているんだから予定事業費が5.3倍になっても良いじゃないか」という議論もありますが。ここで予定事業の方でもう少し公平にしようとすると今度は予定事業費の方でその分バランスが崩れて、20歳の予定事業費率が50歳に比べて割高な度合いが大きくなるということになります。

一般にこのようなことを考えながら、生命保険会社は保険金比例部分と保険料比例部分をうまく組合わせる形で、予定事業費を決めています。

ライフネット生命は今の所ねらい目の若年層の保険料を安くするために、保険料比例の予定事業費を使っているということですが、今後目標を高年齢層に拡大していこうとする時、高年齢の予定事業費が高過ぎる状況を何らかの形で修正しなくてはならないことになるのかも知れません。

最初の生命保険の保険料


これはおまけですが、今のような形の生命保険事業が始まったのは、250年ほど前のイギリスのエクイタブル生命という会社からです。この会社は保険料を計算するのに、予定利率と予定死亡率しか使いませんでした。ですから
    営業保険料=純保険料
    付加保険料=0
    予定事業費=0

ということです。

それじゃあ「とんでもなく赤字か」というと、決算をしてみると「とんでもなく儲かっている」ことがわかりました。安全を見込んで予定利率を低めに設定し、また予定死亡率もかなり高いものを使ったので利差益・死差益がたんまり発生し、その中から事業費を支払ってもまだたんまり利益が残ったということです。

このようにエクイタブル生命の方はあらかじめそのような事態を想定し、敢えて予定事業費を取らなくても会社の経営に問題は生じないと判断したわけです。

「付加保険料が大きい・小さい」という議論も良いですが、このような付加保険料が0で保険会社は大儲けというケースもあることを考えてみて下さい。
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