「生命保険年金は二重課税との微妙な最高裁判決と還付(1)」より続く 「生命保険年金は二重課税との微妙な最高裁判決と還付(2)」 「生命保険年金は二重課税との微妙な最高裁判決と還付(3)」へ続く
生命保険年金は二重課税との微妙な最高裁判決と還付(2) 「実質が同じ」なら課税が同じというのはとおらないし、それは有利な方を選択すればいいだけ。退職金を一時金で受け取るのと企業年金で分割して受け取るのとは課税で違いがあるけれど有利不利を考えて選択すればいいだけのことです。
そこでいろいろ調べてみました。一審の長崎地裁判決後に著名で権威のある方々が論文を発表してきていますから、調べるのは容易です。それに高裁判決・最高裁判決前の論文ですから、現時点のように最高裁判決に縛られずに自由にお書きになっています。
資産税の税理士ならだれでも知っている国税OB、小林栢弘先生の解説(週刊税務通信2007.5.28.)では、
相続時に所得が実現していない(年金受給による所得は年金支給時に実現する)からここてで二重課税防止のための非課税規定が働くこともない。(…だから年金への雑所得課税でいい…ということなのでしょう。)
つまり今回の最高裁判決と反対の結論のようです。
一方で、やはり税理士ならだれでも知ってる法人税課税大家で成蹊大学名誉教授の武田昌輔先生(税研2007.7月号「事例研究」)。最高裁判決の前に発表されていたものですが、こちらの結論はこの最高裁判決の同じです。
「非課税だ。運用益は課税しろ。」
他の議論とは違う鋭い論旨には納得してしまいます。
「そもそも所得かどうかの問題じゃない。そんなこと(年金は雑所得ということ)にこだわるから二重課税の変な議論になるのだ。年金は単に保険一時金の回収額なんだから、そもそも所得でも何でもない。だから二重課税の問題は最初からないのだ。」
「所得税法9条の解釈から入るのでは、議論のスタート地点を間違えている」ということなのでしょう。なるほどそうかもしれません。
まあ専門家からではなく一般からの視点の多くは「分割払いでも一時金と実質同じだろう」のですが、同じことを税実務の大家が税の言葉で主張されるとなるほどと納得はできるのです。確かに私はその「変な議論」に迷い込んでいます。それにしても武田先生の割り切りは見事です。
「この年金は保険一時金の回収額であって、年金所得ではない。二重課税を否定する論者は、このことを忘れて、年金は所得であるという一般論としての前提に立って論じている点が誤っていると考える。重ねて言えば、年金という姿を採っているが、本件の場合は、年金という形式の分割払いたる性格を有しているのである。この場合に、利息をどのように取り扱うかの問題は、これはこれを抽出して課税すべきであるということになろう。(税研2007.7月号「事例研究」)」
ただそれでも…。
投資用不動産の価格はディスカウントキャシュフローといって将来収益すべてと将来売却額との合計額の現在価値が理屈上の価格になります。それを相続税法では路線価と固定資産税評価で代用しているたけです。
だったら相続税課税された不動産価格は将来収益の合計額の現在価値ですから、その意味は保険一時金と同じです。将来の家賃収入や将来の売却額だって同じで所得税非課税でなくてはいけません。
似たようなものには、信託受益権や特許権著作権そして果樹等あります。いずれも将来収益見込み額(収益還元額)に対して相続税が課税されて、改めて所得税課税されます。二重課税なのです。
そもそも、将来収益をもたらす用益としての潜在力があるものであり、貨幣額で合理的に評価できるものが資産なのでしょう。そこには現金預金等ここでの問題となりえないものもありますが(宝石等はよくわかりませんが)、資産価値とは基本的には現在から将来に先送りされた収益力の現在価値です。
だとすればすべては年金受給権と同じです。二重課税されて当然なのか、あるいはここでの年金のように分割払いで非課税となるのかの違いは「その金額がアヤフヤかどうか」ということになるのでしょう。
ここでの年金は「全くアヤフヤさがないのだから、一時金の分割払いだ」となるようです。
年金の場合には一時金を分割払いにしただけで数理的にも金額的にきっちり算定されている、ということでしょう。それならば有期(年数限定)の年金受給権はいいとして、終身年金(死ぬまで支給)の受給権はどうなるのでしょうか。いつまで生きる次第で価値は変わり「アヤフヤ」なものです。終身年金は不動産同様に結果がアヤフヤです。
やっぱり腑に落ちません…。
最後に元高松国税局長で税法の大所高所からの大家、筑波大名誉教授の品川芳宣氏の第一審長崎地裁判決への詳釈「生命保険契約における死亡事故に基づき支払われる年金の課税所得性」(税研2007.3月号)です。。
「本件のような保険金課税ついては、…明文の課税規定が存するわけではなく、実際に年金として受給したときのみに所得税が課税されるということで、整合的な所得課税が行われているわけでもない。また、…所得税の源泉徴収義務制度との関係においても、当該年金が「雑所得」に該当することを要件に所得税を源泉徴収しているわけでもない。」
「本件処分のように、本件年金を雑所得と解するのも一つの解釈論であり、本判決のような考え方も一つの解釈論ということになり、いずれが妥当であるかは、関係条項の総合的な解釈に委ねられることになる。」
「本件年金の雑所得該当性等の判断については、相当困難な解釈論を伴うことになる。」
「総合的な解釈に委ねられる」のであり、それは「相当困難な解釈論」…ようするに判断は難しいということが結論のようです。そしてうまく解釈できれば、それでいいという結論のようです。
まあ、いいか…。品川先生が「困難」とお書きになっているほどなのだから。それに最高裁判決で方向は決まったのだから…
2010.7.26.加筆
次の論文が最高裁判決の下敷きとされた論文といわれています。 生命保険をめぐる相続税法および所得税法上の諸問題 大阪経済大学経営学部准教授 辻三枝氏
なにしろ税大ジャーナルという国税庁傘下のお上の論文集の2010年2月号に掲載されたものです。そんなところにこの論文が掲載されているのだから、最高裁も安心して判決を出したのでしょうね。興味のある方はどうぞ。
2010.8.15.加筆
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