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年金保険の二重課税の判決解説(2) 坂本嘉輝 1/3
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年金保険の二重課税の判決解説(2) 坂本嘉輝 1/3 死亡保険金を年金の形で支払う場合の二重課税の問題に関する最高裁判決についてその2(1/3)
2010年 9月8日
前回は基本的に裁判の議論を紹介しましたが、今回は私の意見を述べてみたいと思います。
1.所得税法には所得の定義がない 今回の議論、やはりポイントは所得税です。受取った年金に所得税がかかるのかどうか、年金が所得になるのかどうか・・ということのようです。
所得なのかどうかは所得税法にちゃんと書いてあるだろう。と思って、改めて所得税法の「所得」の定義を確認してみました。
そうしたら何と、所得税法には「所得」の定義がないんです。びっくりですね。専門家は前から知っていたことのようですが。
もちろん形式的にはちゃんと定義されています。
所得税法第2条(定義)第21号に (各種所得)第二編第二章第二節第一款(所得の種類及び各種所得の金額)に規定する利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得及び雑所得をいう。 となっており、これらの全体が所得ということのようです。
また同じく所得税法第35条(雑所得)第1項に 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。 となっています。
「何だちゃんと定義してあるじゃないか」と思うかも知れませんが、論理的にはこれは定義していないということになります。 これをはっきりさせるために、たとえば所得が2種類だけ、A所得とB所得だけだとしましょう。 1.所得とはA所得とB所得のことである。 2.B所得とは所得のうちA所得でないもののことである という定義になりますね。 1.の所得の定義では【A所得とB所得の定義】を使って所得全体が定義されます。 2.のB所得の定義では【所得全体とA所得の定義】を使って、B所得が定義されます。 所得全体とB所得がそれぞれお互いの定義にもとづいて定義されているということです。これは論理的にどちらも定義されていないということになります。 たとえば 「みんな」というのはAさんとその仲間のことです。「その仲間」というのはみんなのうち、Aさん以外の人のことです。 と言った場合、Aさんはみんなの中に入るのはわかるけれど、「それ以外のみんな」に誰が入るのかわからないというのと同じことです。
2.死亡年金の雑所得はちゃんと定義されている。 所得は定義されていないのですが、年金の雑所得についてはちゃんと定義されています。所得税法施行令の第183条(年金保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等)は、条の名前は「生命保険契約等に基づく・・・保険料等」となっていますが、その中味は「雑所得の額の計算はこのようにします」ということであり、雑所得の額の計算の規定になっています。
普通の日本語では「これこれが雑所得」だという規定がなくても、雑所得の額はこのように計算するという規定があれば、その雑所得の額の計算の規定により暗黙のうちにそれに該当するものは雑所得だと規定しているのと同じことになります。
何か仕事のお手伝いをして「バイト料は1時間1,000円です。」と言われた時、「バイト料は貰えるんですか」などと聞き返したりしなくてもちゃんと貰えるはずです。それと同じことです。「バイト料を払います」と言わなくても、「バイト料は1時間1,000円です」というだけで「バイト料を払う」と言っているのと同じことになるということです。
そのため普通に考えればこの所得税法施行令の規定により、「死亡年金は雑所得だと定義されている」ことになります。これが国税側の基本的な主張です。
3.みなし相続財産の所得税非課税の規定 みなし相続財産の所得税非課税の規定は、所得税法第9条(非課税所得)の第1項に
次に掲げる所得については所得税を課さない。 として、その第15号に
相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)
としています。 余分な所を省いてしまうと
『相続税法の規定により、相続により取得したものとみなされるもの』という所得については所得税を課さない。
ということです。 ここでは二つのことが言われています。 ・ 『相続税法の規定により、相続により取得したものとみなされるもの』というのは、所得である。 ・ その所得については所得税を課さない。 そこで『相続税法の規定により、相続により取得したものとみなされるもの』とは何か、みてみましょう。 条文は結構込入っているので必要な部分だけ抜き出すと、今回のケースでは
相続税法第3条(相続又は遺贈により取得したものとみなす場合) 第1項 次の各号のいずれかに該当する場合においては当該各号に掲げる者が当該各号に掲げる財産を相続または遺贈により取得したものとみなす。 第1号 被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約の保険金を取得した場合においては、当該保険金受取人について当該保険金の全部。 ということです。わかりやすく書き直すと 被相続人の死亡により相続人が生命保険契約の保険金を取得した場合は、その相続人がそ の保険金を相続により取得したものとみなす。 ということになります。
これを前の所得税法の規定と組合わせると 被相続人の死亡により相続人が生命保険契約の保険金を取得した場合 ・ その保険金は相続人の所得である。 ・ その所得については所得税を課さない。 ということになります。
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年金保険の二重課税の判決解説(1) 坂本嘉輝 生命保険年金は二重課税との微妙な最高裁判決(1)
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