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死亡保険金を年金の形で支払う場合の二重課税の問題に関する最高裁判決について(1/8)
2010.8.10
死亡保険金を年金の形で支払う場合の二重課税の問題に関する最高裁判決について 坂本 嘉輝(保険数理人…アクチュアリー)
【はじめに】
最高裁「二重課税は違法」という判決について騒ぎが広がっていますが、必ずしも正確な理解がされているわけでもないようです。ここでちょっと落着いて、何がどう判決されたのか解説しましょう。
まず「二重課税は違法」というのは、「違法」という言葉でわかるように、判決で違法になったのではなく、もともと法律に「二重課税をしない」という主旨のことが書いてあるんです(主旨のことであって、直接「二重課税をしない」と書いてあるわけではありません)。今回の最高裁の判決は、被保険者の死亡による年金について、これまで「相続税」と「所得税」と、「別々の所得に別々の課税」をしていたという理解だったものが、これは別々の所得ではなく同じ所得だから、それに対して相続税と所得税の両方課税するのは「所得税法違反」だというように判断したものです。
では何が所得税法違反かというと、それは所得税の規定あるいは所得税の取扱のようです。すなわち「所得税の規定あるいは取扱が所得税法違反」だという、ちょっと面白い状況のようです。
また新聞の記事などを見ると「二重課税は違法なのは当たり前じゃないか」というような議論がありますがこれも間違いで、二重課税は必ずしもないわけじゃないし、違法ということでもありません。今回の件は所得税法に「相続にかかるこれこれの所得については、所得税は課税しない」と書いてあるから課税してはいけないのに現実に課税しているから、それは所得税違反だということです。二重課税というものはどんな場合でもやってはいけないんだということでもありません。実際二重課税というのはごく普通のことで、たとえば同じ所得に所得税と住民税を課すのは二重課税だとか、所得税を払った所得で何かを買うのに、再度消費税を課すのは二重課税ではないのかとか、色々な議論ができます。
ここまで前置きとしてまずは何が起こったのか、それに対してどのような判断がなされたのか見てみましょう。 【資料】 以下、最高裁の判決に至るさまざまな議論を解説します。その元は
最高裁判所の判決
その前の福岡高等裁判所の判決
その前の長崎地方裁判所の判決 . その前の国税不服審判所の裁決 です。
これらは法律用語で厳密な堅苦しい言葉で書いてあるのでなかなか読みにくいので、それを普通の言葉にホンヤクして解説してみます。原文を見なくてもわかるように解説しますが、興味がある方あるいは正確に理解したい方は、これらの原文を見ながら私の解説が合っているかどうか、確認してみて下さい。 これらの資料へのリンクは
ビジネス法務の部屋 (http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/)というブログの、 【年金受給権・所得税課税に関わる最高裁判決への感想】という記事にあります。
最初最高裁判決のニュースを聞いて、ちゃんと理解したいと思ってまず最高裁の判決文を友人にファイルで送ってもらい、その後これだけじゃ良くわからないので地裁・高裁の判決文も同じ友人にファイルで送ってもらったのですが、そのあと上記のブログのこの記事を読んでみると、その中に既にこれらの判決文へのリンクが貼ってありました。国税不服審判所の裁決についてはこの記事のコメント欄に私が質問し、このブログの読者の方から同じくコメント欄で教えてもらったものです。
さらに地裁の判決文にある「受取り年金に対する必要経費の計算」についてもわからない所があったのをここのコメント欄で質問し、別の読者の方から教えてもらったりしています。
何といっても最高裁の判決ですから、議論がいきなり最高裁に行くわけではありません。その前に地方裁判所・高等裁判所の判決があり、さらにその前に国税不服審判所という税金関係の判断をする所の議論もあります。 これらの場所で、国の税務当局と長崎の一主婦とその応援団が税法の解釈について議論を積み重ね、8年の歳月をかけてやっと出た結論ですから、あまり急がずじっくりと考えてみましょう。
【事実の経過】 まずは「何が起こったか」からまとめてみましょう。 1.Aさんは夫が平成8年8月1日を契約日として第一生命の「年金払生活保障特約付終身保険」に入っていました。死亡保険金は4,000万円、死亡に伴う生活保障特約年金は、年額230万円が10年間支払われるというものです。保険料は亡くなった夫が、死亡するまで累計195万1,291円払込んでいます。
2.その夫が平成14年10月28日に死亡しました。 Aさんは平成14年11月6日、第一生命に死亡保険金・年金を請求し、第一生命は平成14年11月8日、4,190万2,745円を支払いました。その内訳は 死亡保険金 40,000,000円 契約者貸付金 △ 195,000円 契約者貸付金利息 △ 2,104円 39,802,896円 年金 2,300,000円 源泉徴収税 △ 220,800円 2,079,200円 契約者配当金 20,649円 20,649円 計 41,902,745円 41,902,745円
3.Aさんは平成15年2月21日に平成14年の所得税の確定申告をしました。 総所得 227,707円 (事業所得のみ) 課税所得 0円 (社会保険料控除の15,426円と基礎控除の38万円だけでもう課税所得は0円になります) 源泉徴収税額 2,664円 (これは上の事業所得に関するものでしょうか) 還付税額 2,664円
4.Aさんは平成15年8月27日、Aさんの夫の相続税の申告書を長崎税務署に提出しました。その中に上記2.の死亡保険金4,000万円および年金230万円の10年間の受給権の価額1,380万円(=230万円×10(年間)×0.6(評価係数))をみなし相続財産として含めていました。
5.Aさんは同じく平成15年8月27日、上記3.の所得税の確定申告に対し、更正の請求をしました。 更正の請求 総所得 377,707円 (もれていた給与所得150,000円を加算しました) 課税所得 0円 (まだ社会保険料控除の15,426円と基礎控除の38万円だけでもう課税所得はなくなります) 源泉徴収税額 223,464円 (もれていた、第一生命に控除された年金に対する源泉徴収税額220,800円分を加算しました) 還付税額 223,464円
6.長崎税務署は平成15年9月16日、上記5.の更正の請求に対し、次のような更正をしました。 更正後 総所得 2,585,707円 (230万円の年金に対し、必要経費分92,000円を 差引いた、課税所得2,208,000円を加算しました) 課税総所得 2,190,000円 (すでに控除されていた社会保険料控除・基礎控除だけがそのまま控除された結果) 源泉徴収税額 223,464円 還付税額 48,264円 (課税総所得2,190,000円に税率8%をかけて税額175,200円。源泉徴収税額 223,464円からこれを差引いた差額48,264円が還付されます)
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