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死亡保険金を年金の形で支払う場合の二重課税の問題に関する最高裁判決について(2/8)
7.これに対しAさんは異議申立て、審査請求を行い、最終的に平成16年6月23日に次のような減額再更正が行われ、審査裁決はこの再更正を認めました。 再更正後 総所得 2,585,707円 課税所得 320,000円 (既に控除されていた社会保険料・基礎控除に加え、寡婦控除・配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除等が追加して控除された結果、課税所得は32万円に減りました) 源泉徴収税額 223,464円 還付税額 197,864円 (課税総所得320,000円に税率8%をかけて税額25,600円。源泉徴収税額、223,464円からこれを差引いた197,864円が還付されます)
8.Aさんはこの上記6.の更正、上記7.の再更正が不当であるとして、国税不服審判所に審査請求しましたが、平成17年2月22日、上記7.の再更正が適法であるとの裁決を得ました。
9.これを受けてAさんは更に国および長崎税務署長(以下「国税側」といいます)を相手に平成17年長崎地方裁判所に訴訟を起こし、平成18年11月7日長崎地方裁判所は上記6.の更正・上記7.の再更正を取消し、上記5.が正しいとする判決をしました。
10.これに対して国税側は福岡高等裁判所に控訴し、福岡高等裁判所は、長崎地方裁判所の判決を取消す(結果的に上記7.が正しいとする)判決をしました。
11.これに対してAさんは最高裁判所に上告し、最高裁判所は平成22年7月6日、福岡高等裁判所の判決を破棄し、控訴を棄却する(結果的に上記5.が正しいとする)判決をしました。 以上のように @ Aさんとその顧問税理士の考え方 (上記5) A 国税側の考え方 (上記7) B 国税不服審判所の裁決 (上記7を正しいとする) C 長崎地裁の判決 (上記5を正しいとする) D 福岡高裁の判決 (上記7を正しいとする) E 最高裁の判決 (上記5を正しいとする) と、考え方・結論がその都度変化しています。本質的な差は上記6.の所で、総所得の所に2,208,000円を足すか足さないかということなのですが、最後の最高裁の判決は結論としては上記5.が正しいとするのですが、後述するようにそれ以外に考え方に大きな変更がありました。
Aさん側の主張する上記5.の還付税額223,464円と、国税側の主張する上記7.の還付税額の197,864円の差額が25,600円ですから、この結果Aさんの手取りは25,600円だけ増える(あるいは返ってくる)ということです。しかし重要なのは、むしろ総所得が上記5.と7.とでは220万円も違うということと、この違いによる所得税の違いは、2年目以降の年金についても効果があるということです。
【前置き】 Aさん側・国税側・それぞれの審判所・裁判所の考え方を説明する前に、いくつか前置きの説明をしましょう。 Aさんは10年間毎年230万円貰う権利の額として、1,380万円の年金受給権の評価額を、Aさんの夫の相続税の申告でみなし相続財産として算入しています。
相続税の申告の課税価格には算入していますが、マスコミなどの報道によると相続税は払っていないようです。ご主人が死亡した場合の奥さんの相続税にはいろいろ優遇措置があるので、相続税を払う必要がないというのはごく普通のことです。
Aさんは年額230万円の年金10年分の受給権の価格として、230万円×10(年間)×0.6=1,380万円としています。これは現在の税法で決まっている計算方式(以下の相続税法第24条(定期金に関する権利の評価)による)です。来年以降の税法ではその価格は(年金を一括払で受取る場合の額である)2,059万8,800円になります。受取年金の総額は(230万円×10=)2,300万円ですから、それと比べると大分少なく評価されていることになります。
年額230万円の年金に対し、第一生命は源泉徴収税額220,800円を差引いて、2,079,200円をAさんに支払っています。この220,800円というのは一体何でしょう。
Aさんの夫は死亡するまで第一生命に保険料を払っています。その保険料のうち、この230万円の年金を10年間支払うという保障のために払った保険料、年金1回分あたりの金額として評価されるのが92,000円になります。この計算もなかなか面白いので、後で説明します。
この92,000円は230万円の年金をもらうために(Aさんの夫が)払った経費ですから、それを差引いた(2,300,000-92,000=)2,208,000円が儲けというか、負担した以上に貰う額になります。これを所得として、この額に対して10%の源泉徴収税率をかけると(2,208,000円×10%=)220,800円が源泉徴収税額となるわけです。第一生命はこの源泉徴収税を1年分の年金の額230万円から差引いて差額の2,079,200円をAさんに支払い、差引いた源泉徴収税は税務署に納付しています。この源泉徴収税額はAさんのように確定申告することによって取り戻すことができます。
さてここからいよいよ双方の主張です。 <Aさん側の主張> 230万円の年金10年間分 総額2,300万円の相続税法上の評価額1,380万円は、相続税の申告の中に含めているので、この部分は既に課税済みである。
実際に受取る2,300万円の年金はこの課税済の年金受給権から支払われるものであり、所得税法第9条の規定により非課税である。だからこれを所得税の所得とするのはおかしい。
<国税側の主張> 相続税の確定申告に含めた1,380万円は、将来的に年金を受取る権利である「年金受給権」の評価額である。これに対して毎年受取る年金はその「年金受給権」を受取っているのではなく、その「年金受給権」から発生する「支分権」にもとづいて「年金」を受取っているんだから、「年金受給権」について相続税法上課税済であるからといって、それとは別の所得である毎年の「年金」に所得税を課すのは、二重課税にはあたらない。
ここで二重課税といっているのは、実は所得税法でも相続税法でも二重課税という言葉を使っているわけではありません(相続税法では、「二重課税」という言葉は使われていません。所得税法では、1ヵ所だけ「二重課税」という言葉が使われていますが、これは今回の件とは全く関係のない外国の課税との二重課税の話の所です)。
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