年金保険の二重課税の判決解説 坂本嘉輝 6/8
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年金保険の二重課税の判決解説 坂本嘉輝 6/8

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死亡保険金を年金の形で支払う場合の二重課税の問題に関する最高裁判決について(6/8)

【源泉徴収】
国税側の

所得税法第207条で、年金について源泉徴収することにしている。これは所得税が課税されることを予定しているからだ。

の主張に対して、
Aさん側は

所得税法第207条の源泉徴収の規定は、だからといって所得税法第35条の雑所得かどうかの判断の元となるものではない。
と反論しています。

【恩給等の取扱】
国税側の

所得税法第9条第1項第3号は、遺族に対する恩給・(勤務にもとづく)年金は非課税としている。

これだけ取り出して非課税としているということは、これ以外の(たとえば)死亡年金が所得税法第9条第1項第15号の非課税所得にはならないことを意味している。
の主張に対し、
Aさん側は

所得税法第9条第1項第3号ロ.は確認的規定であって、だからといって所得税法第9条第1項第15号を反対解釈してはいけない(すなわち所得税法第9条第1項第3号ロ.の非課税の規定は念のために再度確認念押しのための規定であって、ここに書いてないからといって死亡年金が非課税にはならないという根拠にはならない)。
と反論しています。

【立法時の考え方】
国税側は新しい視点として

そもそも所得税法第9条第1項第15号の立法の際、年金は所得税の課税対象と考えられていた。

それは税制調査会の昭和38年12月6日の「所得税法及び法人税法の整備に関する答申」の中で明確になっている。

相続税法第3条第1項第1号の立法の際も、みなし相続財産である年金受給権にもとづき毎年支払われる年金は所得税の対象であると予定していた。
という、これはかなり決定的な議論を打ち出しています。

【税率が100%を超える?】
これに対してAさん側も

死亡年金に所得税がかかるとすると、仮に昭和50年〜58年の最高税率を適用すると、合計税率は168%になってしまう。

(相続税の最高税率75%・所得税の最高税率75%・住民税の最高税率18%。75%+75%+18%=168%)

今回の年金にその税率が適用されたとすると、総額2,300万円の年金受取額に対して支払う税金は、合計3,088万4,400円となり、年金受取総額を超えてしまう。

相続税が 評価額 1,380万円×75%= 10,350,000円
所得税が必要経費控除後の年金額 2,208,000×75%=1,656,000×10(年)= 16,560,000円
住民税が 2,208,000×18%= 397,440×10(年)= 3,974,400円
合計 30,884,400円

こんな、収入よりこれに対する税金の方が大きくなるなんてことは憲法上許されない。
という、これもかなりインパクトのある主張を展開します。

【税の還付を受けられない?】
また国税側は

仮に年金が非課税所得だということになると、源泉徴収自体が誤りということになり、そうなると誤って源泉徴収された税の還付を受けることはできないことになる(このような最高裁の判決が過去にあるようです)。
という、変化球を投げてきましたが、これに対し
Aさん側は

所得税法第207条は年金に対して一律に源泉徴収する規定であるから、その年金が非課税所得であっても、年金を払う第一生命には源泉徴収義務がある。だからこの源泉徴収は誤って徴収されたものではない(だから源泉徴収された税金は還付を受けることができる)。
と反論しました。

【高裁の判決】
この議論を受けて、高裁の判決は

相続税法第3条第1項第1号で相続税の課税対象となり、所得税法第9条第1項第15号で所得税の課税対象とならないのは、保険金請求権である。

年金は支分権にもとづき発生したものだから、相続税法第3条第1項第1号の保険金には該当せず、所得税法第9条第1項第15号の非課税所得にはならない。

所得税法第207条の年金に対する源泉徴収の規定は、その年金が支払を受ける者に所得が生じることを当然の前提としている。

所得税法第9条第1項第3号ロ.は所得税法第9条第1項第15号とは別に非課税規定を設けている。これは死亡年金が所得税法第9条第1項第15号の非課税所得にならないことを前提としている。

すなわち所得税法は死亡年金に対して、所得税の課税を予定している。

所得税法・相続税法の立法時の見解は、年金受給権は相続財産として時価により評価して相続税を課税し、年金の支払を受ける時は保険料を控除した残額に所得税を課税することになっており、所得税と相続税は別個の税体系の税なので、二重課税の問題はないとしていた。
.
年金の受取は死亡によるものであろうと自分で保険料を払ったものであろうと、いずれにしても所得があるので、所得税の対象となる。

そして死亡年金については、自分が保険料を払っていないのに受給権を得ているんだから、相続税の対象となる。

このように考えれば二重課税にはならない。

最高税率が100%を超えるという主張については、この相続が昭和50年から58年の間に発生したものでもないし、相続人のAさんが最高税率の適用を受けるような状況でもないので、憲法違反にはあたらない。
というものでした。今度は一転、国税側の完勝です。

【最高裁の判決】
国税側から「立法時の考え方」などを出されてしまって「これでもう決まりかな」と思うのですが、Aさん側はもうひと頑張り、最高裁に上告することにしました。

最高裁では基本的に新しい証拠だとか主張だとかについて議論し合うのではなく、今までの地裁の議論と判決、高裁での議論と判決を踏まえ、その法律解釈について検討します。その結果最終的に次のような判決を出しました。

所得税法第9条第1項第15号の「相続・遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」とは、相続等により取得し又は取得したとみなされる財産そのものを指すのではなく、当該財産の取得によりその者に帰属する所得と解釈すべきだ。

その当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは、当該財産の取得の時における価額に相当する経済価値に他ならない。

それは相続税又は贈与税の課税対象となるものだから、相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないことにして、二重課税を排除している。

相続税法第3条第1項第1号のみなし相続財産は、基本権としての年金受給権のことだ。

年金受給権の相続税上の評価額は、将来受取る年金を現在価値に引き直した金額の合計額だ。

その評価額と受取る年金の総額との差額は、運用益だ。

毎年の受取年金のうち上記現在価値(の取崩し)にあたる部分は、所得税法第9条第1項第15号により非課税となる(それを上回る部分は運用益として所得税の対象となる)。

1回目の年金支払について、受給権の発生と年金の支払が実質的に同時で運用益が生じるような期間はないので、全額が上記現在価値(の取崩し)にあたる部分となり、全額非課税となる。

所得税法第207条の源泉徴収は所得税の対象になるかならないかにかかわらず徴収する義務があるので、第一生命が源泉徴収したのは適法である。

従ってこれを還付請求して還付を受けるのも適法である。

結果として1回目の年金受取については所得税の対象となる所得は発生しないので、Aさんの更正の請求の計算が正しい。
というものでした。

今回の裁判はAさんの1回目の年金の受取についての所得税の計算について争われたものなので、結果的にはAさん側の勝訴ということになったのですが、その内容はまるで違います。

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