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年金保険の二重課税の判決解説 坂本嘉輝 5/8
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死亡保険金を年金の形で支払う場合の二重課税の問題に関する最高裁判決について(5/8)
【地方裁判所での国税側の主張】 地方裁判所の議論は、国税不服審判所で議論したことも含め、改めてゼロスタートで、Aさん側・国税側がそれぞれ主張を展開します。 Aさん側の主張は上に書いたものの繰り返しになるのですが、国税側はいくつか新しい主張を追加してきたようです。
年金受給権の相続税法の評価額は1,380万円だけど、年金は230万円×10回であり、年金は毎回230万円を受取っているので、年金受給権(の一部)を受取っているわけじゃない。だから相続税法の「保険金」には該当しない。
所得税法施行令でも具体的に雑所得の金額をどう計算するか書いてあるし、また所得税の源泉徴収の規定でも具体的に源泉徴収税額の計算が規定されていることから、年金が雑所得なのは明らかだ。もしこれが非課税なら、源泉徴収の対象になるはずがない。 所得税法の非課税の規定は、被相続人の死後に実現する所得に課税してはいけないといっているわけではない。 年金受給権の価額は1,380万円。この年金を一括払いで受取ると2,059万8,800円。こんなに違うんだから、年金受給権と個々の年金の全体は経済価値が同じものとは言えない。
【長崎地裁の判決】 このような双方の主張を受け、長崎地裁の判決は . 所得税法により所得税非課税となるみなし相続財産について、みなし相続財産と実質的・経済的に同一のものと評価される所得は、それがみなし相続財産と異なる権利ないし利益と評価できるとしても、それに所得税を課すことはできない。
(ここで「異なる権利ないし利益」と言っているのは、年金受給権を元にして毎年受取る年金はその受給権を基本権として、その支分権により受取るので、異なる権利によるものだという議論を受けてのもので、異なる利益というのは年金受給権の評価額と受取る年金とでは額にしろ名前にしろ違うということを言っているものと思います。)
相続財産に利息が付いたり値上がり益などが発生した場合、その利息や値上がり益を受取ってしまっても、もともとの元本や資産自体に影響しない(ので、それ(利息や値上がり益)については所得税を課税する)けれど、年金の受給権は年金を受取るとその分受給権が除々に消滅していく(ので、それについては所得税は課税されない)。
受給権に相続税を課した上に個々の年金に所得税を課すのは、実質的に同一の資産に二重課税することになるので、所得税のみなし相続財産非課税の規定により許されない。
国税側の「所得税法の非課税の規定は、被相続人の死後に実現する所得に課税してはいけないということではない」という主張は、だからと言って「所得税を課税しなければいけない」ということではない。
たとえば役員の死亡退職慰労金は、死亡後3年以内に確定したものであれば相続財産とみなされることになっているが、このように相続財産の中には死亡後に発生する権利もある。
相続後に発生した債権・実現した所得であるからと言って、それがみなし財産にならないとか、所得税を課税するとかの根拠になるわけではない。
所得税法施行令の年金の雑所得の計算の規定は、様々な年金について一括してその雑所得の計算について規定しているもので、これを根拠に今回のような死亡年金も雑所得だとするわけにはいかない。
年金の源泉徴収の規定も、同じく死亡年金以外の年金についての源泉徴収の規定だと解釈すべきで、この規定のために死亡年金が所得税非課税ではないとは言えない。
年金受給権の評価と年金の一括払の金額の違いは、現価計算の方法が違うためであって、年金には受け取り段階で所得税がかかるのでその分年金受給権を割引いて評価しているわけではない。(要は「年金が雑所得として所得税が課税されることを前提として、その分相続税上評価額を小さくしている」というわけではないということです。)
受給権の評価と一括払の額が違うからといって(それが別物だということで)、二重課税ではないとは言えない。
結論として、死亡年金を雑所得とするのは誤りであり、Aさんの更正の請求の計算(事実の経過の5.の計算)が正しい。
と、今度はAさん側の完勝です。
もちろん国税側もそれで引っ込んでしまうわけにはいきません。福岡高等裁判所に控訴です。 長崎には高等裁判所がないので、高等裁判所は福岡になります。
この高裁での議論はAさん側・国税側とも新しい議論を提出して、なかなか面白いものです。
【一体のもの・別のもの】 まず年金受給権と年金自体が一体のものか・別のものかという地裁でも争われたポイントですが、 国税側は 相続税法第3条第1項第1号の保険金は金銭ではなく、その請求権を意味する。
相続時に年金受給権は発生しているが、支分権としての受給権は発生していない。
だから支分権による年金は相続税法第3条第1項第1号の保険金には該当しない。
だから年金は所得税法第9条第1項第15号の非課税所得にはならない。
Aさん側は
相続税法第3条第1項第1号の保険金は基本権・支分権・年金のすべてを包含したものだ。
基本権と支分権は別々の権利だとしても、別々の担税力があるわけではない(要するに税金を払う元となる収入は一つだということ)ので、これに相続税と所得税を別々に課税するのは所得税法第1条第9項第15号により許されない。
相続税法第3条第1項第1号の「保険金」について定義がないのは、通常の日本語として解釈しなさいということだ。
相続税法基本通達第3条第6項に、保険金・年金の言葉があって受給権・基本権の言葉がないことは、上記のように相続税法第3条第1項第1号の保険金は基本権・支分権・年金のすべてを含んでいるということだ。 と、あいかわらず正面からぶつかったままです。
【拡大解釈】 また国税側は地裁の判決についても
地裁の判断は拡大解釈だ。
租税法は侵害規範だから(要するに個人の財産を勝手に取上げる財産権の侵害のルールだから)、それを拡大解釈や類推解釈してはいけない(そんなことを言うなら、そんな解釈の余地のないように税法をもっとはっきり書いといたら、とツッコミたくなりますね。) とかみついています。
【二重課税】 国税側は
所得税法第9条第1項第15号は相続税の課税対象となる財産の取得に対して二重課税とならないようにしているもので、「実質的・経済的」な二重課税を禁止するものではない。
二重課税は「同一の課税物件」に対するものをいうのであって、異なる課税物件に別個に課税するのは二重課税ではない。
と主張し、
これに対してAさん側は . 死亡年金ではなく自分で保険料を払って年金を受取る場合、一時金で受取って一時所得として課税されるか、年金で受取って雑所得として課税されるかどちらかであって、両方ではない。これは基本権と支分権を同一物と見ていることを示す。 と反論しています。
【相続財産を譲渡した場合】 新しい視点として、国税側は
相続した財産を直後に譲渡した場合、取得時(相続時)以降の増加益は相続税と所得税が二重にかかっている(相続税は増加益を含んだ譲渡価額で相続税を計算することになっていて、所得税は増加益に対しても課税することになっているようです)。 と言い、二重課税は必ずしもすべてのケースで否定されているものではないと主張し、 これに対しAさん側は
(それを規定している)所得税法第60条は政策的に二重課税を決めているもので、争点の死亡年金には該当しない。 と反論しています。
【果樹と果実の例】 また国税側は
相続財産が果樹の場合、その評価は収益還元法による(すなわち将来の果実収穫による収益を現価に割引いて計算したものを評価額としている)。
この場合果樹には寿命があるのでその評価額は時と共に減価し、果樹は減価償却資産として扱われている。
しかしながら果樹からの収益(果樹による収益)には(まるまる)所得税が課せられる。
すなわち時の経過によって価値が減少するからといって、所得税法第9条第1項第15号の非課税所得になるわけではない。 と新たな例を持ち出してきますが、 Aさん側は
果樹も果実も争点の死亡年金には該当しない。 と反論しています。
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