保険約款の失効規定無効の東京高裁判決は
保険料を2ケ月払わないと生命保険は失効します。でも裁判所が「そんなに簡単に失効させるなんておかしい。そんな保険会社の約款は無効だ」という判決をだしました。 Aさんは、医療保険入院日額1万円と死亡保険金1000万円の定期保険をソニー生命で契約しました。保険料月額は合計16000円余です。Aさんは平成16年8月と17年3月のことでした。
契約日 平成16年8月1日 保険種類 @総合医療保険、A退院給付金特約、B入院初期給付特約 保険料 @7150円、E665円、B640円(合計保険料8455円) 保険料の払込方法 月払、口座振替(特約)扱い
契約日 平成17年3月1日 保険種類 平準定期保険 保険料 7664円 保険料の払込方法 月払、口座振替扱い
そのAさんは平成18年夏に突発性大腿骨頭壊死症と診断されます。そして秋から治療を開始します。保険料は平成19年1月・2月と続けて残高不足で支払いができませんでした。銀行口座の残高不足です。生命保険は保険払込期間の翌日末までに払い込まれないと、すなわち翌月末まで払われないと、預金振り替え貸付け等がない限り自動的に失効します。この二つの契約は保険契約は失効しました。
このソニー生命の契約の保険約款は次のようになっていました。
「払込期日の翌月の…末日までを猶予期間とする。…猶予期間内に保険料の払込みがないときは、…猶予期間満了の日の翌日から効力を失う。」
これはどの保険会社にも通じる一般的な約定でしょう。3月1日に保険契約は効力をうしないました。つまり失効しました。
Aさんは3月8日に払い込まれなかった2ケ月分と3月分のとの保険料を用意して、て「保険契約の復活」を申し込みます。
保険が失効しても保険料を払えば契約は元に戻せます。しかし健康状態に問題があればだめです。Aさんはその健康状態を理由として復活の手続きを拒絶されます。
Aさんは以降の保険料の法務局に供託します。保険会社が受け取らないために、供託の手続きをとったのです。
そしてソニー生命を相手側として「保険契約が存在することの確認」を求める裁判を起こしました。第一審の横浜地裁ではAさんの主張は認められません。そして東京高裁で争います、東京高裁で2009年9月30日に判決がありました。逆転してAさんの主張が認められました。判決で保険契約は失効しておらず、契約はそのまま存在していめことが確認されました。
保険会社側はきっちりたいおうしたけれど判決文には保険会社のフォローの様子があります。契約からの期間が短いのですが繰り返し保険料未払いを起こし、一度は失効も復活もしており、担当者が繰り返し注意喚起しています。
以下東京高裁判決からです。
「 控訴人は、平成17年6月分の本件各保険契約の保険料を払込期月内に支払わなかったが、その際、被控訴人の担当者の■■■■(以下「■■」という。)は、控訴人から保険料振替口座が残高不足になりがちであると聞いていたので、控訴人に対し、保険料不払により本件各保険契約が失効しても復活の手続がとれるが、一定の健康状態でなければ復活できないことがあるので、保険料不払には注意するよう伝えた。
本件各保険契約は、いずれも保険料振替口座の残高不足により、平成17年9月1日に失効して同月15日に復活し、同年12月1日に失効して同月2日に復活した。これらの際にも、■■は、控訴人・に対し、上記と同様の注意をした。
控訴人は、平成18年10月分及び同年11月分の本件各保険契約の保険料も払込期月内に支払わなかった。■■は、控訴人から、大腿部の一部が壊死したとの連絡を受けたため、控訴人に対し、本件各保険契約が失効した場合には、復活に影響を与えるおそれがあることから、保険料不払をしないよう特に注意をした。
被控訴人は、控訴人が保険料振替口座の残高不足により平成19年1月分の本件各保険契約の保険料を支払わなかったので、同年2月14日、控訴人に対し、同月分の保険料振替の際に同年1月分の保険料も併せて振り替えること、同年2月中に同年1月分の保険料の支払がない場合には、本件各保険契約が失効すること等を記載した通知書を送付し、その際、コンビニエンスストアからの送金もできるように、コンビニエンスストア用の払込票も併せて送付した。」
ソニー生命とその営業マンがかなりしっかりフォローしていることが伝わってきます。ソニー生命としては「こんなにちゃっんとやっているから、失効したってそれはしょうがないじゃなすか」と言いたげです。
しかし判決では、そんな個別の事情は関係なしししています。
またもととなった生命保険約款が大臣の認可を受けたものだからいいだろうといっても、判決では、そんなの関係ないと言いきっています。
そして、催告なしに保険契約が期限経過とともに自動的に失効するという保険約款の条項が、消費者に不利な約定として、消費者契約法で無効になるかならないかが問題で、これらの事情は関係なしとして、検討判断するとあります。
消費者契約法では、消費者の権利を制限し又は義務を加重するもので、信義誠実の基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効にします。
消費者契約法10条は「民法の基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」と定めているのです。
大学に受かって入学金授業料を納付したが、別大学入学で入学辞退。返還に応じない大学に対し、入学金はともかく、授業料は消費者利益を一方的に害すから返還しろとの最高裁判決(2006.11.27.)があります。
民法での原則と比べると基本原則は民法での解除の規定です。つまり民法では「解除」の際にどのような手続きが必要かが基本原則なのです。
「民法第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。」
ここでいう「期間内に履行がない」を保険契約に置き換えると、「猶予期間内(翌月中)に保険料の支払いがない」ということになります。だから保険料が支払われないのなら、つまり債務の履行がないのなら「相当の期間を定めて催告しそれでも支払いがない」のなら、つまりちゃんとそれから催促してそれでも支払われないのなら、契約解除できるということになります。
この保険契約の保険約款の失効の定めは期間が経過するだけで催告必要なしに、自動的に解除となってしまいます。民法の原則に比べ「消費者の権利を制限」していることと東京高裁は判断しました。そして「本件無催告失効条項により消費者である保険契約者側が被る不利益は大きいというべきである。」として「失効」は無効という判決でした。
保険会社はいろいろフォローしていますが「なお、これは保険契約上の義務として行っているものでないことが明らかであるから、保険契約者のためには恩恵的なものにすぎない」としています。
またに翌月1ケ月の猶予期間がもうけられていますが、判決では猶予期間は「(振替不能といった)事態の防止のために有効なものとはいえない」としています。
民法原則に従って保険会社から催告するには配達証明付き内容証明郵便が必要です。大量処理での手間とコストがかかります。郵便が届かなかったらどうする…等々の問題もあります。
判決でも次のように言っています。
「本件無催告失効条項を無効とした場合に被る被控訴人の不利益としては、保険者である被控訴人は、多数の保険契約者を相手方としていることから、民法の原則に従って催告や解除の意思表示を要することになると、大量処理のため手間とコストがかかることが挙げられる。……控訴人は、民法に従って催告等を要することになると、それは配達証明付き内容証明郵便ですることが必要となり、しかも、現実に保険契約者に到達するまで何度も繰り返さなくてはならないとして、そのための費用の増大を懸念していることがうかがわれる。」
しかし届け出の住所に送ればよいようにするなど「約款の規定を整備することで十分回避できる」と切り捨てています。
保険料の払い込みには1ケ月の猶予期間があり、それでも払われなかったら保険契約は原則失効する…というのは保険業界人の「当然の常識」です。消費者契約法はその常識を破ります。次は最高裁です。
生命保険約款の規定は消費者契約法違反で無効 東京高裁判決…無催告失効は無効 1/3 東京高裁判決…無催告失効は無効 2/3 東京高裁判決…無催告失効は無効 3/3
それぞれ何年も前に書いた原稿ですが、いまだに役に立ちそうです。 生命保険会社の約款…内規はどこまで有効なのか by 管理人
大手生保各社の一部解約の約款比較 by管理人 各保険会社別に微妙に表現を変えています。また本下の判決は更新料ではなく敷金判決です。敷金返還に関連し、自然損耗及び通常損耗ついてはこの考え方ですでに定着しています。 生命保険約款研究 生命保険約款は消費者契約法違反の宝庫ではないでしょうか。
保険料の払込…猶予期間および契約の失効 まさに判決の対象となったソニー生命の約款が取り上げられています。
2009年11月 保険選びネット管理人
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